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2006年2月20日 (月)

春まち桜

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外は寒い日が続いても、
少しずつ少しずつ、桜の芽が膨らんできています。
上野公園の桜の木も、
ちょっとはなれて見ると桜色に霞んでいるように見えるのは気のせい?

もうすぐ3月、「ひなまつり」ですね。
「ひなまつり」といえば、さくら餅。
というわけで、
さくら餅にまつわるお話を一つ。

     *     *     *

 バスの停留所の前に、小じんまりとした和菓子屋さんがあるのです。家族五人のぜんぶが商売をてつだっていて、いつも、この店に入ると、すがすがしい気分になります。
 老舗というのでもなく、気取ったお菓子を店先にならべるのでもありません。店の奥がお菓子を作るところで、ときどき、機械の音がひびいてきます。
 四季を問わずにあるのは、どらやきとだいふくもち、それに鹿の子、きんつばです。あとは春ならさくら餅に草餅。
 若葉のころには、もちろん柏餅にちまき、夏になれば、屑ざくら、水ようかん。季節のちょっと手前で次のものを出すそのタイミングも、ちょうどころあいの早さというか、おそさというか、季節のさきどりをしないところが、なにか、安らかなお店という感じがします。
 「寒さがひとくぎりしないうちは、さくら餅も、作る気がしないのです」
 さくら餅のときも柏餅のときも、ビニールの葉は決して使わず、ほんものを使います。
 「葉の香りが、おいしいんですもの、ビニールなんか使いません」
と娘さんがいっていました。
 バスの停留所の前なので、私もときどき買います。バスが来ないのを見すまして、かけこんで、包んでもらいます。
 ほかのお客さんもたいていそうで、お店の人も顔を半分、バスの方に向けて、「まだ大丈夫ですね」といいながらつつみます。
 つつんでいる最中にバスが来てしまうと「お代はこの次に」といわれたり、ときには、こっちから「おつりはこの次でいいわ」と、バスにとびのったりします。

 バスの中には、この店のお菓子づつみを持った同士が、かち合いますが、申し合わせたように小さなつつみです。家に帰って、一人に一つか二つあたる、そんな程度のものでしょう。
 一日の仕事をおえて帰りがけに、バスの停留所の前のお菓子屋さんで、さくら餅を買う客、バスが行ってしまうのを見送って、戸閉まりをはじめるお菓子屋さん。
 なんだか、とても、暮らしの息が合っているみたいな情景だと、いつも思っています。

     *     *     *

          「さくらもち」

          暮らしの手帳社/「すてきなあなたに」 より 
 

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